受験百景(予備校講師のブログ)

「受験」や「入試問題」に関係する話、日々の雑感を様々な視点から書きます。備忘録も兼ねていますので、くだらない話もあるかもしれません。

学校の授業中に内職をすることについて-どうしても気になってしまったので書きます

 

まずは、以下の記事を読んでみてください。

www.asahi.com

 

よくある医学部受験の記事ですが、不都合な真実を避けているように感じました。

 

引用しながら見ていきます。

 

文部科学省が2月24日に発表した国公立大志願状況などをもとにした河合塾のまとめによると、前期日程では前年比101%で微増でした。6年連続で減ってきて、7年ぶりの増加。下げ止まりましたね。

(『朝日新聞EduA』より)

 

ここはデータ通り、事実を述べているだけなので、特に問題ないでしょう。

 

コロナ禍で、医師の過酷な働き方や病院経営の大変さなどもクローズアップされました。生徒たちをみていると、プライドや、難関だからというゲーム感覚で医師を目指す受験生は少なくなりそうです。本当に医師になりたい子、人を助ける仕事をしたいと考えている子が残っていくでしょう。

(『朝日新聞EduA』より)

 

この部分は少し違和感があります。

 

「ゲーム感覚で医師を目指す受験生」は減るかもしれませんが、「ゲーム感覚で医学部を目指す受験生」は依然として多くいると感じます。

 

医学部には行くけど、医師にはならない人たちです。

 

極端な例は、東京大学理科三類です。

 

東大理三になると、「医師になりたい!」ではなく、「東大理三に合格したい!」です。

 

「偏差値が一番高いから」という理由で目指すのです。

 

そして、理三に入った後は医師にならないという道を選ぶのです。

 

2020年のデータだと、医学部医学科卒業生100人中の14人が医師以外の進路を選んでいます。(この数字が多いか少ないかは議論の余地があります)

 

また、記事では「人を助ける仕事」と書いていますが、人を助ける仕事をしたい子がみんな医学部を目指すわけではありません。

 

人を助ける仕事をしたいと思っている薬学部志望者や看護学部志望者もいるはずです。

 

もっと言えば、経済学部は人を助けないのか?理学部は人を助けないのか?ということです。

 

そういう意味で、「人を助ける仕事をしたい」という理由だけを取り上げているのは、少しおかしいです。

 

今春の結果をみると、学校のオンライン授業の取り組みが、合否に影響したといえます。休校期間中に紙だけで宿題を出していた高校の生徒はやはり理解が不十分で抜けが大きいと思ってしまいます。

(『朝日新聞EduA』より)

 

このあたりから、本題につながってきます。

 

オンライン授業でたくさん内職ができた、登下校の時間がなくなり自習時間が増えたという事実をこの記事では見ないようにしています。

 

オンライン授業だろうが、紙だろうが、勉強ができる受験生は学力を伸ばし、勉強ができない受験生は停滞するのです。

 

この話は、おおたとしまさ『ルポ塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体』(幻冬舎新書)にも書かれています。

 

 

平等を突き詰めるほどに露呈する「不都合な真実

 今後もインターネットを介して、さらに高品質な教育サービスが日本全国に広まってい くだろう。 しかしそのときさらに大きな皮肉が露呈する可能性があることは、前述した 日本の教育の歴史を振り返れば容易に想像がつく。 日本中の子供たちがオンラインで同じ映像授業を見て勉強しても、模試を実施すれば大きな得点差がつく。

 こう言っては身も蓋もないが、できる子は、鉄緑会に通おうが、インターネットで映像授業を受講しようが、山に籠もって1人で問題集を解こうが、できる。できない子は鉄緑会に行ってもできない。そのことをさらに強調してしまう結果になりかねない。

 平等を追い求めるほど、「前提」の違いが露呈するのである。いかんともしがたいこの 「前提」には、遺伝のほか、どんな家庭文化や学校文化に属しているかが強く影響していると教育学の世界では言われている。

(『ルポ塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体』より)

 

次にいきます。

 

――入試の難易度はどうだったのでしょうか?

私立大は、問題が相当易しくなりました。ただ、慶応義塾大や日本医科大などの私立トップ大学は例年通りで、易化したのは偏差値的に中堅から下位の大学医学部です。

首都圏のある大学医学部では、数学で満点が続出したと聞きますし、化学で有機化学分野を出さなかった大学もありました。これには驚きました。また、問題数を多くして受験生のスピードで学力をみていた大学は、例年よりも問題量が4分の1以上カットされていました。

(『朝日新聞EduA』より)

 

「入試の難易度」と「問題の難易度」を混同しています。

 

受験者が同じで問題が易しくなったら、合格最低点が上がるだけです。

 

「入学難易度」は問題が難しいか易しいかで決まるわけではないのです。

 

優秀な受験生が多く集まれば入試の難易度は上がり、優秀な受験生が少なければ入試の難易度は下がります。

 

例えば、京都府立医科大学や滋賀医科大学の数学は東大理三よりも難しいことがありますが、東大理三よりも入試難易度が上がるわけではありません。問題の難易度によらず、東大理三が最難関です。

 

 

 

さて、最も気になったのが次の部分です。

 

近年の医学部入試問題はどんどん平準化されています。特殊な内容はほとんど出ません。基本を漏れなく理解しているかが問われています。ですから、学校の勉強をまずはきちんとやってください。高校生であれば、起きている時間の多くは学校にいるわけで、そこを無駄にしてはいけません。授業中に塾の宿題をする? それでは先生からの信頼は得られません。

医学部でも学校推薦型選抜などが広がり、今後も増えていくと予想されます。問われるのは、学校の勉強をいかに大事にしてきたかです。音楽も体育も頑張り、遅刻もせず、まじめに学校生活を送ってきた受験生が合格しています。

(『朝日新聞EduA』より)

 

「特殊な内容はほとんど出ません。基本を漏れなく理解しているかが問われています。」という部分は概ね同意します。

 

しかし、「ですから、学校の勉強をまずはきちんとやってください。」とつなげているのは滅茶苦茶です。

 

学校で「基本」を習得できるということを前提にしているようですが、それは誤りでしょう。

 

学校で「基本」を習得できないから予備校や塾が必要になっているではないでしょうか?

 

河合塾の職員が答えているインタビューですが、学校では”基本を漏れなく理解する”ことができないから、河合塾という予備校が存続できているのです。

 

予備校の職員が、自分の予備校の授業ではなく、学校の授業を評価しているのはいかがなものでしょうか?

 

「学校の授業では、医学部入試に対応できないから、予備校や塾に通ってください」というくらいのことを言ってほしかったです。

 

河合塾は麹町校という医進特化校舎を作っているくらいなのですから…。

 

授業中に塾の宿題をする? それでは先生からの信頼は得られません。

 

ここも引っ掛かります。

 

医学部に合格するために、学校の先生からの信頼を得る必要はありません。

(信頼を得ても得なくてもどちらでもいいです)

 

そんなことを気にしていないで、学力を伸ばしましょう。

 

授業中に塾の宿題をする(内職をする)というのは上位層ではよくある話です。

 

ちょうどいい話があったので、再び『ルポ塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体』から引用します。

 

学校の授業中は塾の宿題をやる時間

筑駒の卒業生は「学校では受験対策はゼロ。ほとんどの生徒が授業中に内職して鉄緑会の宿題をやっていました」と証言した。

(『ルポ塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体』より)

 

筑駒のような上位の学校で何が起きているのかには目をつぶって、学校の授業が大切と刷り込むのはやめていただきたいです。

 

音楽も体育も頑張り、遅刻もせず、まじめに学校生活を送ってきた受験生が合格しています。

とありますが、

受験に必要な科目だけを頑張り、遅刻をして、不真面目に学校生活を送ってきた受験生も合格している

のです。

 

こういう記事を見ると、表層的ないい話をするだけではなく、(不都合な)真実についても隠さずに書いてほしいと思ってしまいます。

 

(学校に忖度しなければならない事情もあるとは思いますが…)

 

以上、目に入った記事を読んだ雑感でした。

 

 

 

 

 

過去の記事もご覧ください。

jukenn.hatenablog.jp

jukenn.hatenablog.jp

jukenn.hatenablog.jp

jukenn.hatenablog.jp