『ファクトフルネス』ー 受験生版(前編)
『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』(日経BP)という本があります。
貧困、人口、教育、エネルギーなど世界の数多くの問題について、一般人も専門家も勘違いをしていることを紹介し、事実に基づく正しい世界の見方や知識を提示していく、という内容の本です。
例えば、次のような問いが載っています。
世界で最も多くの人が住んでいるのはどこでしょう?
A 低所得国
B 中所得国
C 高所得国
↓
↓
↓
↓
↓
答えはAです。
発展途上国と先進国を頭に思い浮かべてください。世界では多くの人が発展途上国で貧しい生活を送り、先進国で裕福な生活をしているのは一握りの限られた人です。
と考えたいところですが、以上の類推は誤りです。
本当の答えはBです。
世界は発展途上国と先進国の2つに分かれているわけではないのです。大多数の人はその中間にあたる生活を送っているのです。
世界が発展途上国と先進国に分かれていたのは1965年頃の話であり、2020年現在には世界は大きく変わっているのです。所得や生活水準は大きく改善しています。
学校で、世界には「先進国」と「発展途上国」があります、と教わると何となく納得して、そうなのかぁと思ってしまいます。でも、その知識は50年以上も前のものです。
こうなってしまう原因を、人間には「分断本能」があるからだと説明しています。
このように人間には本能(思い込み)があり、それに引きずられて誤った方向に進まないように警鐘を鳴らしています。
事前にどのような思い込みに陥りやすいかを知っておくことによって、それを防止できるのです。
『ファクトフルネス』では以下の10個の人間の本能(思い込み)が紹介されています。
1.分断本能 …「世界は分断されている」という思い込み
2.ネガティブ本能 …「世界はどんどん悪くなっている」という思い込み
3.直線本能 …「世界の人口がひたすら増え続ける」という思い込み
4.恐怖本能 … 危険でないことを、恐ろしいと考えてしまう思い込み
5.過大視本能 …「目の前の数字がいちばん重要だ」という思い込み
6.パターン化本能 …「ひとつの例がすべてに当てはまる」という思い込み
7.宿命本能 …「すべてはあらかじめ決まっている」という思い込み
8.単純化本能 …「世界はひとつの切り口で理解できる」という思い込み
9.犯人捜し本能 …「誰かを責めれば物事が解決する」という思い込み
10.焦り本能 …「いますぐ手を打たないと大変なことになる」という思い込み
さて、ここからが本題です。
「これは受験勉強にも生かせる」とこの本を読みながら感じました。
少し改変をすれば、受験勉強をしている際の思い込みに対して、注意を与えるものになるのです。
1つ1つの本能(思い込み)を受験生向けに読み替えていきます。
受験勉強の参考にしてください。
1.分断本能(「世界は分断されている」という思い込み)
(ここでは全国上位1桁のような特殊な受験生ではなく、偏差値40~60程度の一般的な受験生について考えます。)
自分よりも成績がかなり上位の人がたくさんいる、そして下位の人もたくさんいる、と受験生は思い込んでいます。
しかし、実際には自分と同程度の成績の人がたくさんいるのです。
模試での分布を見るとわかるでしょう。上位と下位は少なく、中間層が最も多いのです。
自分より成績の低い人を見て安心感を得ようとする受験生もいます。
偏差値80を超えているような人と同じことをしようとする受験生もいます。
(世の中にある勉強法の大半は東大生などの勉強ができる人が書いているので仕方ない部分もありますが)
やるべきことは違うのです。中間層から抜け出して上位層に入る勉強をしなければならないのです。
偏差値75を偏差値80にあげる勉強をしても空回りするだけなのです。
自分の学力レベルの現状を正しく把握して、その上で何をすべきなのかを考える必要があるのです。
2.ネガティブ本能(「世界はどんどん悪くなっている」という思い込み)
受験生は、自分の状況がどんどん悪くなっていると思いがちです。
模試はずっとE判定だ。偏差値がなかなか上がらない。
このような受験生がたくさんいます。
しかし、その捉え方はあまり良いとは言えません。
「悪い」と「良くなっている」は両立するのです。
そして、ゆっくりとした進歩は把握しにくいのです。
E判定の中でも偏差値や順位は上がっているかもしれません。
総合の偏差値が上がっていなくても、ある科目の偏差値は上がっているかもしれません。
数学の偏差値が上がっていなくても、ある大問で満点を取れるようになっているかもしれません。
「悪い」という状態の中にも「良くなっている」ことはあるのです。
模試が返却されて、「ああ、今回も悪かった…」で終わりにするのではなく、詳細を正しく分析することが大切です。
そして「良くなっている」ところを見つけ、自信をつけていくのです。そうすると、成績は上がっていきます。
3.直線本能(「世界の人口がひたすら増え続ける」という思い込み)
受験生は、勉強をすればするほど、成績はどんどん上がっていくと思い込んでいます。
実際はそううまくはいきません。急激に上がるときもあれば、下がるときもあるのです。
「20点を60点にする勉強」と「60点を100点にする勉強」とは量も質も全く異なります。40点という得点幅は同じですが、その内容は違います。
そのことを意識せずに、同じ勉強をしていても、成績は上がっていきません。
各個人の状況によりやるべき勉強は異なり、さらに時期や成績変化により、勉強内容や勉強法は変わっていくのです。
自分の状況に合った「勉強」を定めるのは簡単ではありません。学校や塾・予備校などの外部の環境も活用しましょう。
絶対的に適切な勉強をすることは難しいので、成績には波が生まれます。
しかし、長期的に見れば上がっていきます。忍耐強く勉強していくことが大切です。
4.恐怖本能(危険でないことを、恐ろしいと考えてしまう思い込み)
これはここまでの内容と少し重複します。
志望校の判定や偏差値が落ちていることを「恐ろしい」と考えてしまう受験生がいます。
「恐ろしい」とパニックになるのではなく、正しく分析することが大切なのです。
人間は、悪いことや恐ろしいことに、自然と目がいってしまいます。
これは本能です。本能であると分かっているだけでも、正しい方向に向かうことができるでしょう。
5.過大視本能(「目の前の数字がいちばん重要だ」という思い込み)
受験生は目の前の数字にとらわれがちです。
模試の成績表が返却されると、「偏差値がいくつ」「順位がどのくらい」ということを気にし過ぎてしまう人がいます。
しかし、模試はいま受けたわけではありません。その数字は1ヶ月以上も前の自分の姿を表した数字なのです。
「目の前の数字」はもちろん大切な指標になります。
その数字はあくまでも参考です。それも活用しながら、現時点での自分の成果点や課題点が何なのかを探ることが大切なのです。
模試を受けてから、成績が返却されるまでの期間で大きく変化しているはずです。
(後編へ続く)