多和田葉子『雲をつかむ話』を読んでみる
2022年京都大学 国語(理系)第2問は、多和田葉子『雲をつかむ話』からの出題でした。
そして、2022年東京大学 英語 2(B)は次のような問題でした。
以下の下線部を英訳せよ。
旅人は遠い町にたどりつき、街路樹が家並み、ショーウインドウの中の商品や市場に並べられた野菜や美術館に飾られた絵画を眺めて歩き、驚き、感心し、時には不安を覚える。旅人は、その町に長年住んでいる人たちよりもずっとたくさんのものを意識的に見るだろう。しかし、いくら大量の情報を目で吸収しても旅人はあくまで「よそ者」、あるいは「お客様」のままだ。外部に立っているからこそ見えるものがあるのだから、それはそれでいいのだが、わたしなどは、もし自分が旅人ではなく現地人だったらこの町はどんな風に見えるのだろう、と考えることも多い。
(多和田葉子『溶ける街 透ける路』)
東大も多和田葉子の作品から出題しています。
多和田葉子は、村上春樹と並んで、ノーベル文学賞の候補に挙がる人ですが、これまで作品を1冊も読んだことがありませんでした。
東大と京大で同時に出題されているこの機会を逃すと、一生読まないかもしれないので、まずは1冊読んでみることにしました。
早速、京大で出題されていた「雲をつかむ話」を購入しました。
とりあえず、1章を読んでみましたが、以下の文章が印象的でした。
日本語を学ぶ外国人がひらがなの「あ」を練習する場面です。
自分の書いた『あ』の字を見て、思わず笑ってしまった遥香の頬の独特の緩め方を思い出しました。それにしても一番初めの文字がこんなに難しいというのはいくらなんでも無茶だ。まず十字架を書けというのは、信仰の薄い自分でさえ受け入れることができました。でもその十字架にからみつく蛇がややこしすぎる。あ! 蛇のうねりは激しく、十字架の下の方が少しゆがんでいる。遥香ちゃんは蛇の誘いに乗ったらどういうことになるのか分かっていないみたいな澄ました顔をして、『あ』の字の練習をさせる。
個人的に、このような外国語に翻訳するのが難しい日本語が好きなのですが、まさにそのような文章でした。
ひらがなを知っているからこそ、腑に落ちる文章です。
内容が面白いのは当然として、日本語の文章も流麗で興味深いです。
京都大学が選ぶのも納得です。
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