受験百景(予備校講師のブログ)

「受験」や「入試問題」に関係する話、日々の雑感を様々な視点から書きます。備忘録も兼ねていますので、くだらない話もあるかもしれません。

医学部志望者は2020年一橋大の現代文を読むべき

 

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2020年一橋大の現代文(問題一)は、信原幸弘『情動の哲学入門 価値・道徳・生きる意味』からの出題でした。

 

 

 

問題はこちらで入手できます。

www.sankei.com

 

全文を読んでいない人、読むのが面倒な人のために、各段落の要約を載せておきます。

 

第1段落
感情労働では、自然に湧いてくる自分の情動を抑えて、その場で求められる情動を無理に抱かなければならないが、これは辛いことである。

第2段落
雇用者や従業員の利益につながるため、感情労働において情動の管理が要求され、不自然な情動が求められる。

第3段落
仕事であるときには切り替えて情動の管理をすることができる(理不尽な要求をしてくる人には怒りを覚えるが、仕事であれば、特に怒りを感じず、笑顔を見せることができる)。慣れてくると自然と仕事人モードになることができて、辛いことではなくなる。

第4段落
感情労働で求められる情動が辛いことでなくなったとしても、そのような情動を抱くことには何か根本的な問題があるように思われる。

第5段落
医師は、患者の言うことに真摯に耳を傾け、病状をわかりやすく説明したり、患者の納得のいく治療方針を示したりしなければならない。患者が無茶な要求をしてきても、けっして怒ったりせず、丁寧に説明し患者に納得してもらわなければならない。医師も情動の管理を求められるのである。

第6段落
医師の仕事と接客業は同じサービス業ではない。患者の苦境に深い共感を示すことが、医師のなすべきことであり、適切なことである。

第7段落
無理にではなく、自然に共感が湧いてくるようになれば、一人前の医師になったと言える。このとき、医師は自分が抱くべき共感を自然に抱いているのである。

第8段落
接客業の場合には、理不尽な要求をする客に喜びを抱くことは、状況に相応しい情動ではなく、不適切な情動である。そのような不適切な情動を抱かなければならないからこそ、接客業は感情労働なのである。

 

 

以上のような内容です。

 

この中で、医師の仕事をわかりやすく説明している部分がありました。

  

将来、医師を目指す医学部受験生は読んでおくと良いでしょう。

 

引用させていただきます。

 

「飲みたいだけお酒を飲んでも、糖尿病が悪くならないように、先生、何とかならないでしょうか」と患者が言っても、「何を言っているのですか」と頭にきて叱りとばすのではなく、患者に共感を示しつつ、その要求を満たすことがいかに不可能かを納得させてあげなければならない。しかし、それはたんに、そうしなければ、患者が自分のところに来なくなってしまって、収入の道を閉ざされるからではない。むしろ、病のために好きなお酒を制限しなくてはならない患者の苦境に深い共感を示すことが、患者を治療する医師にとってまさになすべきことだからである。ここでは、たとえ強いられたものであれ、共感を抱くことがまさになすべきことであり、それゆえ適切なことなのである。

(信原幸弘『情動の哲学入門 価値・道徳・生きる意味』より引用)

 

 

ちなみに、一橋大学は2008年の英語(第1問)でも「共感」をテーマにした問題を出題しています。興味のある人はこちらも読んでみてください。

 

 

〈余談〉

「信原幸弘」という名前に見覚えがあると思ったら、東大でこの人の授業を受けたのを思い出しました。一橋大の入試問題で再会できました。